隷の星

SF作品の二次小説のブログです。

PART2 3

キリコらを乗せたトレーラーは、一路東へと奔走していた。キリコの肩から瞳に、朝の陽光がゆっくりと差し込んでくる。ブルーの瞳がターコイズカラーにゆっくりと変化していく。キリコは考えていた。

―――フィアナ、おまえに逢うためにはこれしかないらしい。あのおぞましい過去の中へ帰るしか・・・・。

キリコは最前からの仲間とのやり取りを思い返していた。トレーラーの中に同席している三人は、まぎれもなくRS部隊の生き残りだが、彼らだけに通じる思いで今その一握りの生き残りの中から集まった者たちだ。皆戦場であった傷ついた思いを抱え、ペールゼンへの復讐を誓って今ここにいる。もちろん彼らがそういう計画をキリコに打診してきたのは、ペールゼンのPS計画についてさる筋から聞きだし、彼らの復讐計画への協力者が存在したからだ。その存在についてはキリコは詳しくは知らない。だが、キリコの短いリド作戦でのいきさつの説明でその素体と呼ばれる女性がPSであるな、と彼らはすぐに見当をつけた。そしてキリコを誘ったのである。成功報酬はあるらしいが、しかし復讐計画自体はキリコには無謀なものにも見えるものだった。無計画とは言わない。あのスクラップの山から四台もの完全武装のATを再生させたのは、彼らのペールゼンへの執念の賜物と言っていいことである。ウドでもそのようなことは何度もあったな、とキリコは少し過去を振り返った。あのゴウトやバニラ、ココナたちはあの炎の中を生き延びただろうか。彼らもそんな部分は少し似ていたのだ。しかしもう会えることもない。自分はまた戦場を生きる兵士として生きていくのだ。彼らは俺にとって、ほんの少し見えた暖かい光だった。あのフィアナにとってこんな俺がそうであったように――キリコは今そう思う。フィアナの光も今はきっと閉ざされている。その研究施設にいるのならば――キリコは楽観的に物を見る男ではなかったので、すでにフィアナが素体の状態まで戻されているのではと思っているのだった。そのような人体研究があるという噂は、RS時代にすでに聞いていたことだった。まさか自分が宇宙空間で目撃するとは思わなかった。彼はだから、自分の無為に流れていく時間の中で、その素体の存在に己を賭けてみたくなったのである。それ以外には彼は何も持たざる者だった。事件への興味はキリコの中ではすでに薄れている。ただその、運命にただただ流されていく存在がまるで自分のように思え、それを取り戻したいと思ったのである。そしてあのゴウトたちがそうであったように、救って自由な場所に置いてやりたかった。それが自分にできる最善のことのように思えた。キリコは神を信じる男ではなかったが、もし神という概念があるのなら、そのような存在からフィアナがそうなれば祝福されるだろうと思った。彼の世界の「神」を名乗る存在はすでに倫理的には死んでいたので、彼はそう考えた。

グレゴルーは運転をムーザにまかせながら、膝の上に電子紙の地図を広げた。マップ上でぼんやりと、研究施設のダミー映像のホログラムが映っていた。衛星写真である。さる筋から渡されたものだ。

「この施設の赤い部分はなんなんだろうな、キリコ。」

「記録状態から見て、サーモグラフィーの反応分布だ。たぶん植物が植わっている。」

「植物?」

「何かを育てているんだ。」

キリコは口をつぐんだ。軍事関係の植物というと、いい植物ではなさそうだった。キリコが黙り込むと、グレゴルーは彼らにとって一番の気がかりの事情を口にした。

「どれぐらいだろう、残っているペールゼンについたレッドショルダーの数は?」

窓の外を見ながら、気のない返事でバイマンは答えた。

「約三十四―五機は残っているだろう。あのじじいはがめてたからな。」

「ひとりで八機を相手するのか・・・。」

ムーザが面倒だとうなったところを、バイマンが答えた。

「どうした。怖気づいたか?」

ムーザはむっとして、答えた。

「俺はなあ、何がなんでもペールゼンを殺すと誓ったんだ。そのためにはわずかでも無理はしたくねぇ。目的に邪魔なもんは、相手にはしたくねぇんだ!」

グレゴルーがあわててとりなすように割って入った。

バイマン、奴の家族の事は話したはずだ。」

ムーザは帰郷したところ、家族たちはバララントの空爆を受けて死んでいたのだ。隊員にはよくある話であった。だがそれでムーザはペールゼンを殺すことを固く家族に誓ったのだ。

バイマンはしかし事もなげにこう言った。

「フン、だからって、こうまで思いつめた顔を見ていると、ムカムカするんだ。」

「なに!」

後ろを振り向いたムーザのハンドルを握る手が空転した。

「あぶねぇ!」

グレゴルーがあわててハンドルを横から握った。キリコはかかわらないというか、かかわり方がわからないのでこういう時は無言である。ハンドルが浮いたのでトレーラーが激しく尻をふって横に揺れた。積荷のATを縛った鎖ががちゃがちゃと後ろで大きく音を立てた。

グレゴルーは大きくため息をついて言った。

「おいおい、頼むから仲良くしてくれよ。それでなくても人数が足りねぇ。いさかいはごめんだぞ、まったく!」

キリコは自分も含め、全員の気持ちがばらばらだな、と思った。おまえも来るか、とは言われた。しかしそれは頭数が足らなかったからだ。しかしそのような状態は特にRS部隊では日常的なものだった。むしろゴウトたちとあった人間的な絆のほうが、キリコとしては非日常だった。それで何やらくすぐったい気持ちがしたのである。あのヘリコプターから金をばらまいて助けてくれた時は、こんな奴らがいるのかと本当に驚いたキリコであった。しかしまた自分はこちら側に戻ってきた。それだけだった。これからもそうだ。そして、今回のキリコの目的は彼らにとっては、ただのほんのついでの用事でしかなかった。そう、キリコはペールゼンにはもう興味はほとんどなかった。首を絞めた時、恩を忘れてと叫んだあの老人に対する復讐は、もうすでにキリコの中では終わっていた。それがペールゼンに対するキリコの「恩」だった。これ以上かかわるのもごめんだと思っているのだった。

彼らを乗せたトレーラーの走る風景は、やがて深い夕闇の色へと変わっていった。

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