隷の星

SF作品の二次小説のブログです。

PART2 1

「―――フォー・カード。わるいなあ、ムーザ。」

バイマンは義手がわからぬように、器用な手つきで左手にカードを持ち替えると、テーブルの上に一枚ずつ並べた。対戦するムーザは一瞬むっとした顔になったが、ゲーム自体は暇つぶしでしかなく、すぐに椅子にもたれた。

「夜が・・・長いな。」

バイマンは笑いかけて言った。

「かあちゃんのおっぱいが恋しくなったかい?」

「少し黙ってろ。」

バイマンとムーザは、グレゴルーが使っているアジトの工場の片隅で、キリコとグレゴルーの帰りを待っていた。話をつける、と二人は出て行ったきり、なかなか帰って来ない。理由はただひとつ、キリコがペールゼンへの仇討を渋っているせいだ。

あの野郎、トンズラする気かもなあ、まさかふたりで名残でも惜しんでいるんじゃあるまいし、とバイマンは言いながらカードをめくり、スペードのエースが出てきたので顔をしかめて闇に放った。ムーザはその様子を見て言った。

「バカヤロウ、そんな筈ないだろう、少し黙っていられねぇのかって言ってんだ。俺はなあ、急かされるのは大っ嫌いなんだ。あいつらを信用できねぇって言うのか。」

ムーザはイライラとした様子で髪の毛をかきむしると、席を立ってトイレのドアをバタンと音を立てて閉めた。用を足す水洗の音にますます顔をしかめながら、バイマンはひとりごちた。

「そんなんだから、キリコにも捨てられるんだよゥ。」

バイマンは自嘲して、半年ぶりに出会ったキリコについて考え始めた。

――あの雰囲気は女ができました、て顔つきだったな。それも未練たらたら、ってやつだ。フン、あの男らしい、お幸せなこった。しかしそう考えるのは、狭いんだよな――。

と、どうやら少しその幻影の女とやらに嫉妬しているらしい自分の気持ちを持て余して、バイマンはさっきから必要以上にムーザにからんでいる。彼がにらむところでは、グレゴルーは元より、一見かたぶつに見えるムーザも、キリコと『関係』があった者だ。というか、そういうことで彼らは集まっている。生き残っているのも偶然なのだが、それもキリコが取り持つ縁ということか。

まったくおとなしそうな顔しやがって、まるでデビルだね、よくぞ三人でとめてくれたもんだ、いやもっとかもなと思うバイマンだった。あの頃キリコは自棄になっていた。まあグレゴルーの場合は持ちかけたのかもしれんが、ムーザは堅物だから、奴の方から誘ったに決まっている。故郷に残した家族があるんだ、と言うのを押し切ったのか押し切られたのか。しかしそんなピッチャーの中の濁った水たまりを作った元凶は、のうのうと生き延びて、レッドショルダー研究から次の新しい研究施設に移っている。それが彼らは許せない。

あのじじいもまったく抜け目ないズル賢さときたもんだ。よーし待ってろよ、そのドテッ腹に風穴が開くまで。キリコ、おまえはもう帰ってこなくていい、おまえはまっとうな人生を送ってくれよ。もう道を踏み外すなよ。おまえはもうレッドショルダーじゃないんだ・・・・。

ほ、とバイマンは息をつき、空調の羽が回っている天井を見上げた。まじでホレた女にフラれたような気分だぜ・・・・。そう思った時、トイレの窓から外をうかがったらしいムーザが、騒々しい音を立ててドアを蹴破って叫んだ。

「グレゴルーが帰ってきたぞ。」

グレゴルーは無言のまま入ってきて、押し黙ったまま、椅子を引いて座った。予想どおりだな、とバイマンはポケットから爪磨きを取り出して磨き始めた。ムーザはそれでも意気込んてグレゴルーに尋ねた。

「で、どうだったい?奴の具合は?」

グレゴルーは重い口調で答えた。

「ああ・・・・フラれちまった・・・・。」

白けた空気は隠しようもなかったが、彼らは準備に取りかからねばならなかった。休憩のあと、すぐにATの整備作業を彼らははじめた。

しかしそれから一時間もたたないうちに、キリコはまた戻ってきた。

「やっぱり来てくれたか、キリコ。」

グレゴルーは喜び、キリコも早速危険な重装備のATの試運転をかって出たのだった。しかし。

―――あの、バカ。

バイマンは思った。戻ってくるなって言ったじゃねぇかと、実際には言っていないのに心の中で彼は毒づいた。相変わらずあきれた野郎だ、と。しかしこみあげてくる嬉しさを抑えられず、やはり胸が熱くなるのだった。それはムーザも同様だったようだ。

キリコは彼らの中では一番幼く、無垢であるが故に戦場では絆になっていたのだった。それはキリコが日常そのような行為をしていても、戦場では精錬さを保ち続けている奇妙な人格の持ち主だったからである。それは曇天の中で、ぽっかりと開いて見える時の青空と似ていた。またキリコが必要以上のことを言わないことも、それに拍車をかけていた。それ故バイマンは、彼の不在だった数週間の間、何かがキリコにあったことは認めていたが、それは彼らの絆にとってはたいしたものではないと思っていた。

―――やっぱり俺たち四人は、レッドショルダーなんだな。

バイマンはその時、自らの経歴を自負するのとは逆の思いだったが、誇らしげにそう思ったのである。それなので、彼は言わなくていいことをつい作業中に言ってしまった。ATの最後の保護塗装をしている最中に、バイマンは仲間たちに尋ねた。

「こいつの肩は赤く塗らないのか?」

グレゴルーが思わずうなった。これからの作戦が隠密行動であるという以前に、それはグレゴルーらには受け入れられないものだった。彼らはRS部隊に配属されたことを、心底から恨んでいるのだ。グレゴルーは叫んだ。

「貴様・・・・塗りたいのか?!」

ムーザも刺すような目つきでバイマンをねめつけた。バイマンは肩をすくめてあきれたように答えた。

「ハ、冗談だよ冗談。」

――まったく冗談のひとつも通じやしねえ。あんまり真剣だとかえって足元をすくわれんだよ。

バイマンはそう思った。しかしバイマンと残りの二人の間には、明らかに齟齬が生まれつつあった。

キリコはそれら仲間の不穏な動きには我関ぜずという感じで、補修作業を続けていた。ウドでも仲間だったバニラが、ATにRS部隊のトレードマークの塗装を塗ろうとするのを、受け入れたキリコだった。彼にはATの肩が何色だろうと、特に問題ではなかった。それが作戦行動に支障をきたさないものならば―――。

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