隷の星

SF作品の二次小説のブログです。

鉄血 宇宙の孤児 3

ガンダムなんとか立ち上がり、起動する。

クーデリア「う、動いた・・・・。よかった。」

ミカ「これからだよ。別に泣かなくても。」

クーデリア「泣いてなんか・・・いません。あっ。」 ガンダム宙に浮く。ミカ、オペレーテイングシステムを次々に操作していく。クーデリア目を見張り。

クーデリア「 あなた・・・一体何者ですか?」

ミカ「何って。ただのみなしごだけど。なんとなくわかるみたいだから。」

クーデリア「実は軍の人でしたか。」

ミカ「だからそうじゃないって。見よう見まねでラジオを聞いたりして。それよりあんた、これからどうすればいいのかな?やっぱり戦うの?」

クーデリア「はい。そうしてください。」

ミカ「いいけど、死人がたくさん出るよ?」

ミカ、応戦する。敵機を次々と撃ち落としていく。見事なシューティング。 地上ではオルガが見上げている。

オルガ「あれはミカが・・・やっているのか・・・・?」

ビスケット「僕たちを守ってくれている。あのミカが・・・・。」 子供たち、ビスケットのあとから出てくる。一緒に夜空を見上げる。

オルガ心配そうに「ミカ・・・。」

最後の一機。なかなか命中しない。無理をするミカ。操縦する手が震えてくる。とっさに右手で左手の震えを抑える。必死の形相のミカ。急降下する機体。クーデリアは気を失う。ミカ、気合で機体を上昇させ、敵を撃ち抜く。ばらばらになる敵の機体。敵パイロットの体が少し見える。ちぎれているのが落ちていく。 ミカ、はあはあして、宙を漂うクーデリアを抱きとめてシートに降ろし、つぶやく。

ミカ「・・・・やっぱり慣れないな。人を殺すのって。」 つづく、の黒タイトル。EDスタート。

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鉄血 宇宙の孤児 2

オルガ「・・・攻撃?そうか、積み荷か!」
ビスケット「オルガ?」
オルガ走って行って事務所のドアを開ける。もぬけのから。
オルガ「はめやがった。どこだ?」
窓の下で車の音。オルガ、窓から飛び降りる。黒服連中、ずらかろうとしている。オルガとおせんぼする。
男A「ひき殺されてぇのか?おい、邪魔だ!」
オルガ「金払え!」
男A「うるせえ。てめえらはおとなしく独立軍やってりゃいいんだよ!」
オルガ「なんだと?」
男A「冥途のみやげに教えておいてやる。独立軍はガキまで道連れに抵抗運動をしましたってな。新聞に大々的に載るんだよ。あばよ!」
オルガ「待てよ、おい!」
オルガとびかかろうとするが、後ろからビスケットに抱き留められる。走り去る車。
そのころ工場では砲撃に皆が逃げまどっている。子供たち抱き合って柱の影で泣いている。
「死ぬの?僕たち死ぬの?」という声。シノたち、かばっている。ミカヅキも来る。
その時、夜空から自動的に搬送されてくる大きな積み荷が届く。
ミカ「なんだろう?」
オルガ「ミカーっ、そいつに触るなーっ!」遠くから走りながら叫ぶ。
ガンダムのプロト機である。砲撃でシートがめくれあがる。
ミカ「モビルアーマー・・・・・?」
団員A震えあがって「俺これ知ってる。昔故郷のかあちゃんが言ってた。モビルアーマーガンダム白い悪魔だって。」
ミカ「こいつのせいで・・・・?」
その時夜空からもう一機別の機体が下りてくる。
コクピットの中の人間、執事のような老人機体を操縦している「お嬢様、あそこに届いています。」
パイロット姿のクーデリア「なぜ予定とは違うポイントに・・・・いいわ、あそこにつけて。」
モビルスーツからロープで地上に降りるクーデリア。砲撃は続いている。
オルガミカに駆け寄ろうとするが、クーデリアの機体にさえぎられる。クーデリア機、また上昇して、敵機と撃ち合いをはじめる。あまりすごい攻撃ではないが、少し敵からの攻撃が小康状態になる。ビスケットセリフ
「僕はみんなの方を見てくるよ!」ビスケット走り去る。
オルガ「お?、おう!」
オルガ少し離れたところからミカに近づくクーデリアを見るカット。あとクーデリアとミカの視点。
クーデリア「その機体を私に渡してください。」
ミカ「あんた誰?」
クーデリア「私の名はクーデリア・藍那・バーンスタイン。故あって戦うことをやっています。」
ミカ「へえ、そう。あんたに名乗る必要あるのかな?」
クーデリア「え・・・・。」
クーデリア一瞬気を飲まれるがすぐに気を取り直して
クーデリア「時間がありません。これを動かさないと。」
クーデリアハッチをあけて乗り込むが動かない。
クーデリア「どうしよう・・・・動かない・・・・動かないわ・・・そんな・・・・。」
ミカ「何やってるの。これ、戦えるの?」
クーデリア「そのはずです。」
ミカ「運転できないの?ちょっと横に乗らせて。」
クーデリア「できそうですか?」
ミカ「工作機械は動かしたことあるんだけど。」
クーデリア「すみませんが、お願いします。」
ミカ、クーデリアの顔をじっと見つめて。
ミカ「嫌だと言ったら?」
クーデリア一瞬顔を紅潮させ叫ぶ。
クーデリア「みんな死ぬのですよ!そんなことを言っている場合ではないでしょう!人にはやらなければならないことがあります!」
ミカ「あんたのせいで死ぬんだろ?」
クーデリアカッとなってミカの頬をはたく。
クーデリア「宇宙の声があなたには聞こえないのですか!たくさんの命たちの悲鳴が!」
ミカ頬をさする動作のあと、うつむいた姿勢で
ミカ「・・・俺もそのたくさんの命のひとりだけど。いいぜ、やってみるよ。」
ミカ、ガンダムを操縦しはじめる。

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鉄血のオルフェンズ 第一話「宇宙の孤児」1

宇宙の空が映り、上からパンダウンして、工場の広い空間。修理工場、古い。鉄機の工作機械、たぶんベルトコンベアーのついた機械。ミカヅキが修理して寝そべりながら仕事をしている。上向けの姿勢で、少し苦しい感じ。アトラ、ハロと一緒に現れる。

アトラセリフ。 「・・・でね、タウンでさ、そのツアー観光客が言ったのよ。女の子たちだったけど、火星に月ってあるの?ないわよねー、あんなの月じゃないじゃない。隕石よ隕石。醜いわよね、地球の月と比べたら月とすっぽん。まさしくそれね。もうがっかりだわぁ、あんなの見るためにナイトツアーに来たんじゃないわよって。ねぇミカどう思う、火星の月。失礼しちゃう、フォボスダイモス。」

ミカ「そうダイモス

アトラ「火星は赤茶けてて何にもないとかさぁ。いくら田舎だからってあんな言い方ないと思う。ね、聞いてる?」

ミカ(気のない返事)「うん、聞いてる。」

アトラ「地球の人たちってどうして見下しているのかなあ。」

ミカ「仕方ないよ、事実田舎なんだからさ。」

アトラ「あっ、そうだ。ミカあんたこの前夕食でピーマン残したでしょ?だめじゃない。お百姓さんごめんなさいは?」

ミカ「うん・・・ごめんなさい。」

アトラ「なんでも食べないと強い男になれないぞ。あ、オルガに言われた仕事もちゃんとやってる?」

ミカ「やってるよ、うるさいな。」

アトラ「オルガの言うこと聞かなくっちゃだめだよ?ちょっと聞いてる?」

ミカ「つけて。ラジオ。」

アトラ、古いラジオのスイッチを入れる。 「・・・・以上、穀物概況でした。続いて工具箱の時間です。今日はN式コンデンサーのつなぎ方です。講師は○○先生です。えー、みなさんこんにちは。みなさんはもうお気づきのことと思いますが、このコンデンサーですが・・・・。」

アトラ「じゃ、みんなのところに戻るから。夕飯前にはあがってきてよ。」

ミカ「うん。」 ミカ、ふぅ、と額の汗をぬぐって。

ミカ「オルガは整備の仕事がないからいいよな。」 ひとりごちる。

場面変わってオルガたちのいる広い空間。小規模な積み荷おろし作業場。オルガ、監督している。 オルガファイルばさみを手にペンでチェックしている。

オルガ「これで300か。あと何個来るんだ?」

団員A「あと500でーす。」

オルガ「こりゃ徹夜だな。」

団員B「えー、冗談じゃないっすよ。こんなブラックな仕事。俺もうやめたいなあ。」

オルガ「うるせぇ、だまって働け。この仕事は支払いがいいんだ。」

アトラ「オルガー、ミカ生きてたよー。あの工作機械、なんとか動くって。」

オルガ「お、そうか。そいつは助かる。ばかやろう、そっと降ろせ。精密機械なんだ。」

団員A「はーい。」

シノ、上のロフトから階段を下りてきて(ロフトにはミニテレビが置いてある)

シノ(肩に抱き着いて)「オルガー、この仕事やばいんじゃねぇ?」

オルガ(うるさそうに)「何がだよ。」

シノ「今さぁ、変なナオンがテレビで演説ぶっこいていたんだよな。場所、○○だからこっから近くねぇ?独立宣言だって。」

オルガ「今時テロなんざ珍しくないだろ。」

シノ「独立運動だよ、独立運動。あれはつぶされるぞ。」

オルガ「女に何ができるんだよ。」

団員B「シノさん、またいい女見つけたんですか?」

シノ「そうなの。でも胸はこの前見たお天気お姉さんには負けてた。」 団員C「またまたー。」

どっ、と笑い声、オルガ、ケッとした顔で。

オルガ「手を抜いてんじゃねぇぞ。」

団員たち「はーい。」

別の階段を上がっていくオルガ。事務所の部屋がある。ノックを二度ほどして待つが反応がないので、オルガいらだってドアをけ破る。反動でよろけながら入る。部屋にはサングラスの男たちがタバコをふかして数人座っている。

男A「おう。入れ。」 オルガ少し緊張しながら。

オルガ「あの、給金は払ってもらえるんでしょうか。」

男B「なんだぁ?払わねぇと思ってんのか。ちゃんとやれ。」

オルガ「やっていますよ。」

男A「いくつ積み荷は集まった?」

オルガ「今のところ300ぐらいです。」

男A「順調だな。あとから大きな積み荷がひとつ届くが、そいつは絶対に開けるんじゃねぇぞ。」

オルガ「はい。」

オルガ、テーブルに視線。テーブルの上にスポーツ新聞が置いてあり、「令嬢、独立宣言!」の見出し文字がある。クーデリアの演説姿。横眼でちら、と見るオルガ。

男A「あとでゲンナマで支払ってやる。こづかいもやるからな。おい。」あごで指示。

男B「ガキどもを並ばせろ。」小銭の小袋を片手で持ってじゃらじゃら出してくる。

オルガ「・・・はい。」

並んでいるオルガの団員たち。空き缶を持って立っている。ヤクザたちが子供に小銭を渡している。

子供たち「これで靴が買えるかな?」「俺漫画がほしい」とかひそひそ言っている。

男B「てめぇら、おありがとうございます、は?」

子供たち声をそろえて「ありがとうございます!」

男B「ときにオルガさんよ。」

オルガ「はい。」

男B「慈善事業じゃねぇんだから、所帯は整理した方がいいな。てめぇがその気なら、いい口を紹介してやる。」向こうに行く。 オルガ、苦々しい顔つきで下を向いている。

ビスケットオルガをなだめて。 ビスケット「気にするなよオルガ。悪いつもりじゃないよ。」

オルガ「そうだけどよ。」 二人歩き出しながら。

オルガ「早くここの仕事も終わらねぇとな。目をつけだしやがった。」

ビスケット「彼らにもいい働き口があるといいけど。」

オルガ、カッとなってビスケットの胸倉をつかみ「てめぇ、見抜けねぇのかよ!あるわけねぇだろそんなもん。」

ビスケット「僕はさ、一緒にいられないならリスクが少ない方がいいと思うだけだよ。」

オルガかなり切迫した調子で「だめだぞ、そんなこと。あいつらも連れて行くんだよ!」 その時、ブザーが鳴って。

オルガ「空襲警報・・・・?」

ビスケット「なんだろう?」 つづく

あとがき

ご愛読ありがとうございました。今回は装甲騎兵ボトムズでの懐かしい作品です。今回ボトムズの同人誌「LIMBO!」に収録していた小説を、リライトしました。1987年発行の本ですから、実に28年ぶりに書き直したことになります。PART1の部分はあまり変えていませんが、PART2については、原型をとどめていないと言っていいでしょう。それでももともとのOVA「ラスト・レッドショルダー」に即した内容であるのは、以前と同じです。今回リライトするにあたり、その後に発売されたOVAの内容を盛り込んでの話にしました。もちろん推測するしかない内容のものは、ぼかして書いてあります。元の小説にあった801要素もそのままにして、オチでそれが一応小説本筋に影響があるという風にしてしまいました。そのあたり、そういうものはない方がいいとおっしゃる方も大勢だと思います。でも18禁ではない・・・と思います。昔私が男性作家の福永武彦さんの「草の花」などで、そういうちょっと801めいた話を読んだ時に、何かロマンチックな思いがしたのを、そのままそんな風なのを目指して書いております。もちろんミリタリーの作品なので、軍隊ものっていうんですか、ちょっと下品な表現になおしてありますが。そのあたり、キリコ受けももしかしたら今なら需要があるかも?とか思って書き直しました。ただ「ラスト・レッドショルダー」自体は非常に地味な作品なので、これまでそのCPでなにがしかの創作にお目にかかったことは、私はほとんどありません。まあそのあたり、ご寛容のほどをお願いいたします。なお、ペールゼンの首を締める描写がOVA「野望のルーツ」と違っているのは、この小説の方が先に自費出版していたからで、その部分は今回も私のオリジナルということで手直ししませんでした。「野望のルーツ」との違いを比べてみられるのも一興かも知れません。

それではふつつかな拙作を読んでいただき、あとがきにまで目を通していただき、真にどうもありがとうございました。また何かの次回作で、皆さんとはお会いいたしましょう。

2015年5月1日    おだまきかこ拝

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PART2 8

「ウォォォォォーーーーーーッ!」

イプシロンのATの魔のついたような動きに、今またグレゴルーが犠牲になった。キリコはPSの血を求めるかのような攻撃に、心底から打ちのめされながらも、冷え切った心で考えていた。PSには幻想を見るべきではない、あれはもともとは殺人兵器なのだ、そう見ていて結論づけるしかないイプシロンの様子だった。しかしキリコはそのロボットと一体になったような人間に、ウドで自分でもわからずにフィアナと名付けた。彼女もそう名付けられて人間のように喜んでいる様子だった。このイプシロンにはそういうことはないのか、まったく可能性としてないのか。しかしイプシロンと言う以外に何か呼びかけるということすら、この戦闘状態では思いつける話ではなかった。バイマン機もさっきから攻撃を受けていて、破損して後退してから姿が見えない。確認できないところですでに大破しているかも知れない。キリコを取り巻く状況は圧倒的に不利になりつつあった。しかしたった一機でもここを突破してみせる。彼はそれで、思わずイプシロンに向かってフィアナの名を呼んでいた。

「やめろ・・・・やめるんだ、フィアナ・・・・。」

むろん、何の効果も期待できなかった。そしてその通りになった。タワー上部のバルコニーで追い詰められたキリコは最後の抵抗を試みたのだが、相手は不気味なまでの冷酷さと俊足の足で詰め寄ってきた。キリコはATであと一歩、と未練の足をあげたところを、イプシロン機に横殴りに蹴られ、宙に放り出された。大きなけががこれと言ってなかったのは幸いと言うよりほかなかった。

「ウウッ」

キリコはATの口から一度バウンドして地上に落ちて動かなくなった。ペールゼンはその様子をじっと物陰から観察していた。彼には信じられなかった。あの今の戦い方はどういう事なのだ。相手の出方をうかがって、自分から一切の攻撃をしないとは。あの男があんな戦闘をするとは、いったいどうした事だ。今のフィアナという名前も、プロトワンの記憶層に残っていた謎の単語で、どうやらキリコがプロトワンに言った名前だと言う。なぜそんなことをあの男がするのだ。自分の知っているキリコはそんな男ではなかった。

ペールゼンは手に持つ杖が震えてくるのを感じた。彼が一番見たくない無様なキリコに、彼は紛れもなく感動していた。いや、彼はそうした自分の感情の動きを押し殺したかった。またなぜそんなキリコをよくやっていると思ったのか、その理由も彼にはわからなかった。それはあるべき感情ではなかった。ただ昔育てたことのある子供が、やや人間らしいまともな行動をしたというだけの話だ。なぜそれにこの私が感動するのだ。そんな人間的な、あまりにも人間的な猥雑な事柄からは私はすでに解き放たれた者なのだ。なぜそれにいまだにとらわれる。私はそんな卑小な者ではない――ペールゼンはそう思い、イプシロンに大声で命じた。

「出よ、イプシロン。最後のとどめは自らの手で行うのだ!」

イプシロンが戦闘の緊張で蒼白になった顔で、ATから飛び降りてきた。だがATでの戦闘以外のプログラムはまだあまり教育されていないらしく、茫然とした様子でその場に立っている。おそらく殺すことの何たるかをこの少年はまだよく知らない。そうペールゼンは見てとると、気絶しているキリコを起こす事になるのも構わずに大声で叫んだ。

「殺せ、その男を殺せ!」

その時だった。暗闇の果てから白い人影が駆け寄ってきた。

「やめさせてください、閣下!」

プロトワンだった。何かを決意した面持ちで、その場に立ってペールゼンをまっすぐに見詰めた。ペールゼンはその時わかった。この少女の何が彼の意識に夾雑物として認識されたのか・・・この少女は一番最初に会った時のキリコとよく似ていた。そう、そして彼自身も忘れていた記憶があった・・・あの実験施設にいた二人の少年少女・・・・彼の消したい忌まわしい記憶・・・それを思い起こさせた・・・・。

――いや、あの施設にいた子供はみな死んだ。この女もキリコも関係ない。私は糾弾されるべき人間ではない。

ペールゼンはそう思い、プロトワンに向かってつぶやいた。

「・・・私は間違っていたのかもしれん。だが、危険すぎるキリコは・・・・あまりにも・・・・あれを生き延びていたのだとしたら・・・。」

「閣下?」

「そんな男がなぜ私の前に何度も立つ。私を試すためか?断罪するためか?私はこれまで育ててやった。なぜその恩に報おうとしない・・・。」

ペールゼンの前に火炎の炎にさらされている子供の姿があった。彼は紅蓮の炎に燃え上っていた。死んでいるはずの子供だった。亡霊だった。よみがえるはずがない悪夢だった。それがもし――このキリコだとしたら。

それは認めたくない。否定するべき事柄だ。私の終生をかけた研究を、何者かがあざ笑っているのだ。こんなキリコが「超自然的に」「偶然の産物で」不死のはずがない。それはペールゼンにとって、絶対に認められない自然現象だった。したがってペールゼンは、声の限りにその場で叫んだ。

イプシロンッ!早くその者にとどめを刺せっ!」

ようやくイプシロンは動いたようだった。なるほど「殺す」という単語にはまだ動かんかと思ったペールゼンだった。基礎的なPSの学習では、まだインプットされていないのだろう。それもまたPSを普通の人間に簡単に反旗をひるがえす存在にしないための配慮なのだろう。このイプシロンは今はまだ木偶だが、そのうちキリコ以上の教育を受けさせなければならない、とペールゼンは思った。と、その時だった。

プロトワンがイプシロンの前に回り込んだ。イプシロンは一度はプロトワンをこづいてどかせようとした。プロトワンは必死でイプシロンの名を呼び、追いすがった。ペールゼンは嫌な予感がした。

「貴様、イプシロンには近寄るな!」

ペールゼンはポケットから小型銃を取り出した。普通の人間の女に成り下がったPSへの威嚇にはこれで十分だ。プロトワンをかすめて一発発射した。轟音があたりに響いた。しかしプロトワンは一瞥しただけで、まったく取り合う様子はなかった。フィアナは拳銃など怖いと思っていなかった。次の瞬間プロトワンの取った行動は、ペールゼンを総毛立たせるに十分な出来事だった。

イプシロン、今教えてあげるわ、愛するってことがどんなものかを・・・・!」

プロトワンはイプシロンに身を投げかけて、その唇に柔らかなキスをしたのだ。イプシロンの動きは止まり、最初は驚いた様子だったが、すぐにプロトワンの肩におずおずと手を回した。そうしてぼんやりとプロトワンの顔の方を見詰めた。何かが彼の内部で起こったのは間違いなかった。

それは先ほどの楽園の中で昆虫を殺した時のものと同じ、とペールゼンは思うと、イプシロンに今傷がつけられたと思う思いでいっぱいになった。あの完成品にこの女は傷をつけた。よりによってこんな形で・・・・!科学者たちは、よりイプシロンにとって、上位自我としてプロトワンが位置づけられると言うかも知れないが、私は断じてそうは思わない。わなわなとペールゼンはその場で打ち震えた。それもあってはならない出来事だった。こんな柔な事象からは、絶対にイプシロンは守らねばならなかったのだ。もしこんな事があったとしても、もっと別の形で・・・・とペールゼンは絶え入るように思った。「殺す」という単語すらままならない状態のイプシロンに、よりによってこの女は。

キリコはペールゼンの放った銃弾以前から、すでに目を覚ましていた。フィアナがウドの頃と少しも変わりがない暖かな懐かしい声音をしており、またイプシロンをおそらく止めようとしてくれた、と思うと、キリコはフィアナを咎める気持ちが起きなかった。彼はじっと二人の様子を見詰めた。やはり嫉妬が少しも起きないと言うと嘘になる。しかし彼らはPSという同種の人間なのだ。彼はフィアナたちのほうに近づきたかったが、ペールゼンがすぐそばにいるのを考えると、そのまま寝たふりをすることに決めた。この老人が今の場面で何を考えたか、彼にはよくわかっていた。そのようなペールゼンに反目するために、彼はああした生活をレッドショルダー部隊では送っていたのだった。今のペールゼンは暴発寸前の銃と同じ状態だった。

が、唇を離したフィアナとキリコは偶然目が合い、彼はまずいことになったなと思った。フィアナはキリコが見ていたとわかり、飛び上がらんばかりの様子になったのである。彼女はさっと茫然としているイプシロンの手を取って暗闇に向かって走り出した。キリコはそれを見て、やや安堵した。彼のそうした思いをくみとったわけではなかったが、フィアナの機転にキリコは感謝した。イプシロンはこの場にはいない方がよい。

「プロト・ワン!」

ペールゼンはふりしぼった声で一声叫び、よろめきながら、銃の狙いをキリコにつきつけた。

「こうなれば、私の手で始末してやる・・・・・!」

願ってもない展開だった。ペールゼンが茫然自失の呈でこちらに近づいてくる。的の方から近づいてくるとは、好都合極まりない。普段のペールゼンなら取りそうもない行動だ。キリコが倒れたまま、ペールゼンよりも素早く右手を動かそうとしたその時だった。

「死ねぇぇぇぇっ!」

壁の向こうからボロボロのATが現れたのだ。バイマンの機体だ。片腕がもがれたスコープ・ドッグだった。ATはペールゼンに向かって豪火を吐き出した。ペールゼンは一声断末魔の悲鳴をあげると、体中に鉛の塊をめりこませて、床にどうと倒れた。無数の弾丸が、血の涙を流しながら、黒く濁った瞳を闇に向かって見開いていた。

「やったぜ・・・・。」

ATの主が、肩で息をつきながらそう漏らした。彼もまた、全身に血を流していた。バイマンはATの搭乗口からもんどりうって下に落ちた。キリコはあわてて駆け寄ってバイマンの体を抱きかかえた。

バイマン・・・・・。」

「・・・・他の奴らは・・・。」

「死んだ・・・・。」

「そう、か・・・。だがレッドショルダーも・・・これで全滅だぜ・・・・。そして、ペールゼンも、この手で・・・・・。」

バイマンは虚空に口を開けて笑った。そして義手の右手を、つぼめる動作を少ししてみせた。キリコはその様子をじっと息を殺して見詰めた。このバイマンも今ここで死ぬのか。それはもう見てとれる様子だった。思うさまもなくバイマンはキリコの腕の中ですぐに息を引き取った。目を閉じた死に顔は、安心したようなかすかなやすらいだ笑顔だった。キリコはバイマンをそっと床に下ろした。亡骸はしかしここに置いていくしかなかった。他の死んだ者たちと同じく、この地獄の釜の底で炎に焼かれるのだ。

すでに施設全体に煙が充満し、炎も出始めていた。ATによる銃撃戦で、施設は壊滅状態だった。秘密結社の連中はすでに撤退し、中はもぬけの殻だった。ペールゼンが死亡したのを確認した今、ここに長居は無用だった。

――ここも、ウドと同じか・・・・。

キリコは足を踏みしめて無言で立ち上がった。戦友と呼べる同僚と死に別れるのは、今回が初めてではなかった。しかし、またひとりきりになった。そう思った。またそんな奴らと会えるだろうか、自分は・・・。ただ彼らに言えなかった、言わなかった言葉がキリコの胸に充満した。その思いに彼の心はむせた。涙は出なかった。ただただ胸苦しくつらかった。しかし何も言えず死んでいった彼らは、もっとつらかったはずだ。

なんとか施設から長いはしごづたいに脱出すると、キリコは荒野をひとり歩きだした。次の街までは徒歩でだいぶある。ヘルメットは捨てた。あの時フィアナに、ヘルメット越しに無言で見ているのではなく、素顔で声をかけてやりたかった。よく生きていてくれたと、俺を覚えていてくれたと。不器用にでも。しかしそうできなかった。それでメットを荒野に置き去りにした。また次の流れ着いた街で備品で買うことになる。何ギルダンか支払うことになる。それでもよかった。俺はあの時怒ったんじゃなかったんだ。誤解しないでくれるといいが。彼は彼の心に住むフィアナに語りかけた。しかし彼は無言でただ前に向かって歩いているだけだった。

施設の上は満天の星空だった。その星々の高く澄んだ先に、あのリドの資源衛星はあった。あの懐かしい場所の出会いは、無意味ではなかった。こんな世の中で自分にとって意味があるということ、それだけが今のキリコにとって、心のやすらぎとなることだった。たとえそれが、忘れがたい過去と隣り合わせの出来事だとしても。

ココナは暖かな寝床の中で目を覚ました。キリコがまた心で泣いている、と彼女は思った。キリコは泣かないんじゃない、泣けないんだよ・・・・・ウドでいなくなったかわいそうなキリコ、もう会えないのかしら・・・自然シーツの中でべそをかいていると、バニラが様子を見に部屋に現れた。

「なんだ、また泣いているのかココナ?」

「だってキリコがまたひとりぼっちでさ・・・うぇっ、うぇっ。」

「ほらほらココナ・・・・。」

と、ゴウトが奥からひっかけているグラスを片手に戸口に現れた。

「ここクメンはウドから南西に5万リーグ、ATの流れ者が来るにはもってこいの場所さ・・・。大丈夫やつぁここに来るよ。」

バニラは答えた。

「そうかな、とっつぁん。他にも街はたくさんあるぜ。」

「あってもなあ。あいつはきっとここに来る。俺にはわかるんだ。ほら、ココナ、だからもう安心して寝な。」

「うん・・・・。」

ココナは布団を鼻先にまで引き上げて、軽くうなずいた。バニラたちは戸を閉めて向こうに消えた。ココナは布団をかぶって小さくつぶやいた。ココナはやはり、キリコが好きなのだ。

「キリコ、また会えるといいな・・・・。」

そうして彼女は目を閉じた。

                                  Alone in the Dark  ― 完 ―

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PART2 7

翌朝は雨だった。酸の雨が、待機しているATの機体を鉄錆色に染めてゆく。

「夜まで待つ。レッドショルダーがいるとすれば、少しでも手を打っておく必要があるからな。」

グレゴルーは言った。キリコらは施設の地下構内への入り口付近に潜伏することにした。お互いに息を殺しながら、万がひとつのチャンスも逃さぬように、近寄ってくる危険を嗅ぎ取るのである。しかし、長く続く沈黙に耐えられず、戦場でもつい私語してしまう兵士も多い。バイマンは決して怖気づいたわけではなかったが、このまま何も言わずにATの戦闘に入るのは、何かたまらない気持ちがあった。何か一言、伝えておくべきではないか。彼はさしあたって昨日つっかかって、「降りる」と言い出したムーザに話しかけることにした。ムーザを標的にしたのは、今では反省したい彼なのであった。

「・・・ムーザ、聞こえるか。」

スピーカーの向こうから雑音のほかに、ある気配が伝わってくるのを感じ、バイマンは続けた。

「さんざんからんですまなかったな。白状すると、俺は・・・。」

「よせ。」

ムーザは言下に否定した。ムーザは昨日のバイマンの言動を、決して心底から許したわけではなかった。しかし義手になったバイマンに、これ以上怒る気にはなれなかった。

バイマンは続けた。

「俺は、本当は・・・。」

本当は、とバイマンは思った。俺は本当は、寂しかったんだ。しかしその喉元まで出かかった言葉は発せられることはなかった。俺はまだ他人に甘えたいのかとバイマンは思った。後をグレゴルーがわかったようにひきとった。

バイマン、話したい事は今は全部胸の中にしまっておくんだ。生きて帰って来た時のためにな。」

キリコは無言で無線の会話を聞いていた。皆これから死地に赴くのだ。そのつもりで、必死で言葉をつむいでいる。俺にはこんな時にも仲間にかけるべき言葉が見つからない。彼は自分の狭量さを思った。昨晩は仲間同士のいさかいにいささか腹を立てていたキリコだったが、寝て一晩たつと、バイマンに昨晩焚き木を投げかけたことについて、彼としてはバイマンに何か言いたい気持ちはあった。しかしキリコはそれができないでいた。彼はそうした人間だった。また己れを切り詰めていくんだな、とキリコは思った。ATに乗ることで、そういった普通の人間関係を先送りし、際限なく自分を切り詰めていくのだと。そしてその予定繰り上げから自分は永遠に逃れられないのだと彼は思った。結局のところATの中から自分は出られないのだと彼は考えた。あのウドで再会したフィアナという女性に惹かれたのも、彼女がごく普通の人間ではなくてATのパイロット乗りだったからだ。その彼女をもしこのATの呪縛から解放できれば、彼女は俺の世界から次第に遠ざかっていく。それでも俺は――彼女を救ってやりたい・・・・・。

「・・・・・・・ゆくぞ。」

すでに日は暮れかかっている。爆破コードを接続させて爆破させるために、そうふっきるようにつぶやいてキリコは坑道内に潜入した。もう宵の明星が、あつい曇天をぬって頭上の中空に輝きだしている。雲間は晴れてきているが、彼らの心は晴れてはいない。ATまで駆けて戻ると、にぶい地響きを立てて爆破音が構内にとどろいた。中にいる元レッドショルダー部隊の耳にも届いたはずである。キリコが戻ると同時に、グレゴルーらは一気にATを駆り入口から中に滑り込んだ。グレゴルーが叫んだ。

「いたぞ、レッドショルダーだ。」

言うが早いか、敵のマシンガンが火を噴いた。もはや感傷になど浸っている暇はなかった。赤い鉄鬼たちは右肩を血の色に染めながら、そこかしこの暗がりに潜んでいた。もうトレーラーに乗っていた時の甘い絶望も、過去への感傷も、ギリギリの命を張った賭博の前に吹き飛ばされていった。

ATの銃弾を駆りながらムーザが叫んだ。

「ケッ、こんなもん、裸のマヌケにしか効きやしねぇ!」

装備には自信のある彼らだったが、うごめく悪鬼に己れを奮い立たせているセリフだった。

「気をつけろ、敵はどこから出てくるかわからんぞ、油断するな!」

グレゴルーが叫んだ。彼らはセンサーの雨を器用にすり抜けて構内に進んだ。と、その時だった。いち早く異変を嗅ぎ取ったグレゴルーが注意を促した。

「ムーザ、気をつけろ!そこに何かレッドショルダーでないやつがいるぞ!」

数メートル先の角を曲がったところに、その見慣れない青い機体はあった。

「へっ、そんなもん屁でもねぇ!」

ムーザはそう言うと、ローラーダッシュで前に突き進んだ。構内の通路は驚くほど無人で、AT以外の障害物が見たところまったくない。これは待ち伏せとみるほかないようだ、とキリコは思った。そして、やはりレッドショルダー以外の機体がいたようだ、と彼は思った。彼女だろうか。しかし。

と、その時だった。

その機体が驚くべきスピードで角を曲がり、ムーザの機体に向かってUターンして突進したのだ。

――この反応速度。やはり彼女か?

やはり元に戻ってしまっていたのか、とキリコが思った瞬間、悲劇は訪れた。ムーザの機体がその青いATの放ったパンチに簡単に吹き飛んだのだ。その動きはあまりにも俊敏で圧倒的だった。

「ムーザ!」

バイマンが叫んだ。こうもあっけなく、あのムーザが死ぬとは。しかしそれは、一瞬脳裏をかすめた意識で、すぐに彼らは態勢を立て直して三機続けて物陰に逃げ込んだ。グレゴルーは言った。

「あいつはレッドショルダーじゃないな!」

キリコは答えた。

「ああ。」

「あんなやつにおまえはウドで会ったっていうのか?」

「たぶんそうだろう。」

「追ってくるぞ!ひとまず逃げる。」

バイマンはその無線会話に交じってくる、笑い声を聞いた。

「なんだこいつ、笑ってやがる。」

それはかすれたような耳につく笑い声だった。ATに搭乗しているのは、むろんイプシロンだった。彼が獲物をしとめて笑っている声だったのだ。バイマンは言った。

「ぞっとするぜ。キリコ、ペールゼンの居場所は見当がつくか。」

「おそらく中心のタワーの中だ。構内を貫いている。」

「よし、こっちだキリコ。」

グレゴルーは先頭に立ってATを進めた。キリコは今の笑い声は彼女ではなさそうだ、男の声だからな、と思った。やや安堵はしたものの、その彼女と恐らく同類の男は、彼女の仲間と見て間違いないだろうと思った。どうやらすでに自分のあずかり知らぬところで、彼女を取り巻く環境は動いているらしいとキリコは思った。そうした事は戦闘場面でよくある出来事だった。同じ状況が続くことはまずないのが、戦場の定石だった。そんな彼女を救いたいなどと先だってまで考えていた自分の甘さを、キリコは苦笑いする思いで考えた。それでも俺は、俺の思っていたようにやるだけのことだ。さしあたってペールゼンのところに、彼女の同類の男がいたという事だけでも発見できたのだ。あとは、彼女からペールゼンを排除すればよい。できなくとも、少しでもその目的に近づけばいいのだ。いや、俺は必ずやり遂げてみせる。キリコはその時そう思った。

ペールゼンは不気味な振動が立っているフロアを忍び寄ってくるのを感じた。

――キリコだな。

彼は、そうに違いあるまいと考えていた。イプシロンを始動させたことで、秘密結社の組織の人間たちがフロアからすべていなくなった時、ペールゼンは我知らずモニターに映っているATに向かってささやいていた。

「・・・グレゴルーか・・・バイマン・・・・そして、キリコだな。」

彼は、それらのATの動きを識別できた。レッドショルダー部隊から彼が不適格者として終戦前に排除した数十人のリストの中に、その名前があった。彼は、モニターのキリコ機に向かって集音マイクから語りかけた。

「私にいったい何用があって来た。お前たちは、私を失望させることばかりだ。」

キリコは応じた。

「ペールゼンか。」

「そうだ。おまえたちの襲撃の目的は何だ。」

「わかっているはずだ。」

キリコのいつもの答え方だった。ペールゼンは憎悪が再びこみあげてくるのを感じた。ペールゼンは言葉を継いだ。

「お前たちを今追っているのは、私の理想そのものだ。貴様らごときでは絶対に勝てんぞ。」

「ありがたい忠告だな。だが、そんな事で、俺たちが引き下がると思うか。」

「本気で私を殺せると思っているのか?」

「でないと、一生悔いを残すからな。」

悔い、だと、とペールゼンは思った。こんな連中が悔い改めるなど、考えられる可能性として万に一つもない。すべてにおいて反抗的だったおまえが、とペールゼンは憤然となった。

「おまえがそう言うのなら、やってみせるがいい。そのイプシロンを倒すことは、おまえには絶対にできん。そしてこの私のこともな。」

ペールゼンはそう言った。キリコはその間もATを移動させていたが、次の瞬間通路の陰から現れたイプシロンのATに鋭い一撃を受けていた。キリコ機はからくも逃れたようだった。なんたる無様な、とペールゼンは顔をモニター画面からそむけると、戦いの行われているエリアへ、コツコツと杖をついて降りて行った。この目でキリコが死ぬところだけは、目撃しておきたかった。

この分ではプロトワンの出番もなく、この茶番劇には決着がつく。またそうでなくてはな、とペールゼンは思った。彼は実はこの蟻地獄の迷路を、彼の育てたレッドショルダー部隊の生き残りの最後の晴れ舞台として用意し、すべてこの地獄もろとも葬り去る予定だった。そうして彼はイプシロンとプロトワンとともに、新天地のクメン王国に降り立つ算段でいた。その呈のいい厄介払いの舞台に、キリコたちは罠とも知らずのこのこと現れたのだ。ペールゼンはそれらしいPS計画に関する情報をキリコらにあらかじめ流していたし、彼らに横流しのATが届くように手配もした。所詮はその程度の連中だった、せめてその哀れな最期を見届けてやらねばならん。ペールゼンはその時そう思った。

彼は自分でも知らず知らずにうちに、レッドショルダーの育ての親の感傷に流されていた。この時キリコらを見捨てて、さっさとクメン行きの搭乗機に乗っていれば、彼は以前の軍事法廷を生き延びたように、この場で延命できたはずだった。しかしそれもまたキリコを取り巻く神の仕組んだ、残酷な宿命だったのかも知れない・・・・・ペールゼンもまた神の走狗にすぎなかったのである。むろん彼がこの時知り得ることではなかったが。

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PART2 6

キリコは目の前でパチパチとはぜる火の粉のゆらめきを見詰めていた。軍用缶詰の貧しい食事をもそもそとスプーンでつつきながら、さっきから誰一人として口を開こうとしない。忘れてしまいたい過去の傷跡が、またパックリと口を開いて闇の中のそこにあるような気配だ。それはATの開口部のハッチの暗闇と似ている。それに包まれると安息感を感じるとかつてキリコはウドで思ったことがあった。しかしそれはすべてに絶望し、生きているのも死んでいるのと同じだったからだ。今、彼らは生きたいと思っている。願わくばペールゼンを計画どおりに殺害し、生還したいというのが彼らのたっての望みである。死は今や彼らにとって、甘き誘惑ではない。それは乗り越えねばならない壁であり、目的への障害物であった。果たして自分たちにできるのだろうかという重い現状認識がある。それが今彼らの口を閉ざしている。その現実の重さから逃れるように、彼らは自然仲間の動向をうかがうようになっていた。こういう時は落ち着いていた方がいいと、グレゴルーはさすが一番年長なので黙って様子を見ている。ムーザとバイマンがさっきから小競り合いを起こしているのを、グレゴルーは困っているのだった。単なる武者震いで互いに突っかかっているのならいい。決定的なことにならなければいいのだが――彼はそう思っていた。

バイマンはキリコの様子をうかがっている。右手の手袋をした義手でスプーンを口に運びながら、彼は思った。――無理しやがって。本当は俺たちともつきあう気はなかったんだろ・・・・。

さっきからのムーザとのいさかいを逐一無言で見ていたキリコは、彼の性分からして、この集団行動に疑問を持っているはずだ。バイマンにはそれがわかっている。しかしバイマンはキリコに横にいてほしかった。単にキリコがいると戦力的にたのもしいからだけではない、それには彼の心の傷があった。

この義手は終戦間近に、キリコとは別の作戦で負った傷だ。キリコはその時リド作戦に参加していた。彼らRS隊の四人が、その前の作戦でやはりキリコの隊列行動には問題があったという話から、同じような心理傾向を持つ集団であるということで、分けられて配属することになったのである。そこでキリコは、素体を見たのだ。バイマンはATごと宇宙に吹っ飛ばされた。右腕を損傷し、彼はATで遊泳しているところを、兄弟機に助けられた。彼は宇宙で漂った際に肺機能まで障害を受け、呼吸機能が地上の空気でも長く持たないだろうと医師に言われていた。しかしキリコはそうではない。彼は、あの地獄の街ウドが壊滅したのにそこから無事生還した。それも五体満足でである。

もう一度キリコとあの頃のようにつきあうことはないとバイマンも思っている。あれから様々な時間が流れた。キリコももう成長したのだ。しかしそばに少しだけでもいてもらいたい。自分の体を心から憐れんでほしいとまでは言わない。そんな自分だが、キリコに一言無理をするなと言いたい。しかしそれがいつもうまく言えない。ましてや仲間の前では言える言葉ではない。きっと来た時のように去るんだろうな、また――バイマンにはその光景が目に浮かぶ。乗ってきたATから特にどうということもなく飛び降りると、またなという言葉もなく、彼はその場からいなくなるだろう。それがキリコだ。いたという痕跡すら、なくなるような男だ。自分が存在していることすら、あいつにとっては消したいことなのかもしれん。だからおまえはそうでないと自分は言いたい。おまえをずっと覚えているやつだって、こうしてここにいるんだぜ。しかしそれは言えないでいた。

その時だった。たき火を見詰めながら、ムーザはぼそりとつぶやいた。

「俺は、降りる。」

ムーザはもともと低い声をさらに低め、足元を見つめながらつぶやいた。考えに考えた末の様子だった。

「・・・・俺は死ぬのは怖くねぇ。だが、他人の痛みがわからねえ奴と戦うのは、お断りだ。」

バイマンは一瞬はっとなったが、ニヤリと顔を作り、ムーザに応酬した。

「俺は抜けるもんか。自分の臆病風を他人のせいにするとは、あきれた野郎だなあ。」

他人の痛みがわからない奴――ムーザにそう思われているのはバイマンにはわかっていた。というか、そう思われるようにバイマンはムーザをあおっていたのだ。ムーザがやめると言い出すまでに思い詰めていたのは知らなかったが、そうした卑怯な奴ということで、ATで作戦行動中に窮地に立たされた場合、ムーザはバイマンを確実に見捨てるだろう。おれのようないい加減な男にはそれが似合ってる―――。

「何だと!」

ムーザは立ち上がった。もう拳を握っている。ムーザは見かけと違って血気盛んな男だ。ムーザは叫んだ。

「じゃあ、この場で殺してやる!」

その場をいさめようとするグレゴルーの声を、すまねぇ曹長、と心の中で拝みつつ、バイマンは一気にムーザの挑発に躍り出た。

「面白れえ。いつも泣きっ面を見せられるよりは、ずうっといいぜ!」

いきりたったムーザのパンチがバイマンの頬に飛んだ。バイマンは痛みをこらえて、砂地で転ばぬように器用に後ずさったが、ムーザのパンチが容赦なく襲ってきたので、ついにどうと音を立てて倒れた。こいつは失態だなとバイマンは思いつつ、構えてみせて余裕で笑おうとさえした。それが、ムーザのさらなる怒りをかったらしかった。

「立ち上がれ、バイマン。どういうわけで、てめえは何で殴らねえ!」

その時だった。黙って成り行きを見ていたキリコが急に立ち上がると、燃え続けるたき火の中から薪の一本をつかみ、バイマンの前に来た。キリコは言った。

「ムーザ。奴の殴らないわけを教えてやる。」

一同がアッと思う間もなかった。キリコは手に持った薪を、いきなりバイマンの右腕の上に放り投げたのである。火はバイマンの制服の袖から、簡単に腕全体に燃え移った。

「うおっ、バイマン!」

あわてて上衣を脱いだグレゴルーは、それで鎮火に務めた。バイマンは一瞬わが身に起こったことがわからなかったが、炎が消えた後に、自らの義手が現れた時、彼は悟った。キリコは知っていたのだと。彼の秘密も、彼の虚勢も・・・。バイマンは力なくつぶやいた。

「・・・そう、か・・・・知っていたのか・・・。」

彼は腕を隠すようにした。グレゴルーは驚きを隠しきれずにバイマンに言った。

「何故隠していた?その腕じゃATの操縦は・・・・・。」

「なあに。見せびらかすようなモンじゃねぇからな・・・・。大丈夫だよ、気にしなさんな。」

「しかし。」

「いいって!」

バイマンは振りほどくように言った。グレゴルーはしかし心配そうに続けた。

「おまえ・・・・死ににいくつもりじゃないだろうな。」

「まさか。生きて帰るさ。そのつもりだよ。」

ムーザはまったく知らなかったので、黙り込んでしまった。彼は、本当に抜けたいと思っていたのだ。しかし、バイマンがこのような事情を持っていたと知り、己れの申し出を恥じるしかなかった。ムーザは言った。

「すまん。おまえが、さっきからその・・・。」

バイマンは義手でない方の腕を振って答えた。

「余計なこと言っていたのは俺のほうさ。あやまるぜ。」

「しかし・・・。」

「抜けたいのなら、抜けりゃいいんだ。なあ、グレゴルー?」

「うんむ・・・・。」

グレゴルーはうなった。この頭数でさらに人数が減るのは考えられる話ではなかった。

「そいつは困る。バイマンおまえがそんなんなら、人数には入れなかった。」

「俺は戦えるさ。おまえ何言ってんだよ。」

「でもなあ。」

その時キリコが口を開いた。

「やせ我慢はよせ。度が過ぎるのは見ていてつらい。」

バイマンは一瞬胸を突かれた。言われたくない言葉を、一番言われたくない相手から言われてしまった。しかしそれは、彼には予測もしていたことだった。バイマンはふ、と痛む右頬で笑って答えた。

「・・・・大丈夫だよ。ほうれ、ペールゼンを絞め殺すには不足はねぇ・・・・。」

そうして義手で何度も絞め殺すまねをしてみせた。グレゴルーはわかったというジェスチャーをした。それでその場はお開きになった。それ以上その話題は続けられなかった。ムーザが抜けるという話もお流れになった。

話がついたと見たバイマンは、「じゃ、寝るぜ・・・。」と言うと、テントの方に行ってしまった。

キリコはバイマンのその態度にはその時終始無言だったが、その瞳の中で何かが動いたようだった。彼もまた、バイマンに己れの秘密が知られていることを、その短い言葉から悟ったのだ。あのペールゼンを絞め殺そうとした時見ていたのか、とキリコは思った。だが、それがバイマンがこの復讐行に加わる直接的な理由ではないはずだ、とキリコは考えた。バイマンはバイマン自身の理由で、それはおそらく負傷した右腕のせいだとキリコは思った。バイマンのAT修理の際の挙動から察した彼は、それでさっき薪を拾って投げたのだった。

バイマンが考えたように、キリコはむろんバイマンの態度にはうんざりしていたのだ。キリコにはバイマンが、自分の身を憐れんでほしいからそのような横柄な態度を取り続けているように見えた。皆己れを守るのに精一杯で、それでいさかいばかり起こしているのだ――そう思い、狭いテントの中でひとり膝を抱えて眠った。

キリコのいた世界は、その頃そのような世界だった。バイマンが昔と変わらず他人行儀な態度で、人をからかうのをやめない。なんとRS部隊は殺伐としているのか――あのウドで優しかったフィアナとは何という違いだろうか。彼女とまた会えるといいのだが・・・・。キリコの願いはその時ただそれだけだった。バイマンをやムーザやグレゴルーの気持ちを思いやることもなかった。それで後になって後悔することもまだ知らなかった。

その夜は、ひっそりと更けていった。

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